[部長挨拶]
2011年3月11日に、私たちは未曾有の東日本大震災に遭遇しました。その時、自然の脅威の前に人間はいかに無力であるかを感じたと同時に、自分には何ができるのかと自問した人は少なくないと思います。医療に携わる者として、あるいはそれを目指している人は余計にその感が強かったのではないでしょうか。すぐに現地に赴き、救急医療に携わったり、重症患者の受け入れなど後方支援を行ったりと、実際に現場に及んだ方もいるでしょう。一方で、多くの医療関係者は、地震や津波による惨状の報告を見ながら、一般診療にあるいは研究に日常を送っていることと思います。何れにせよ、この度の大震災は医療者に多くのことを考えさせ、職業人としてのプロ意識を感じさせているのではないでしょうか。
明治時代の大思想家である福沢諭吉先生は、「学問のすすめ」のなかで、働くということはただ一家を養うことではなく、社会にいかに貢献していくかを常に考え行動しなくてはいけないと述べています。心身ともに悩める人々を助けることが、医療の本質であり、それに携わることが医療者や医学者の使命であると考えます。医学部や看護学部で学ぶ若い諸君たちは、そういった医療者を目指して、これから良く学びかつ激務に耐えうる心身を作らなければなりません。そのためには、ただ授業を受けるだけでなく、スポーツを通して健康な体と心を磨く必要があります。剣道は日本古来の武道の一つとして、心・技・体を鍛える格好のスポーツ競技であります。また、剣道は「礼に始まり礼に終わる」と言うように礼節を重んじ、謙虚さを失わないで人に接する大切さを教えるものでもあります。これらのことは、医療を行う上でも常に忘れてはならないものであり、生涯を通して実践すべきことです。
入学した時の初心を忘れず、勉学に励むとともに、剣道の稽古を続けながら、充実した学生生活を送ることを祈ります。そして、社会にしっかりと貢献できる医療者としてまた医学者として育っていってもらいたいと期待します。
剣道部部長
横浜市立大学付属病院・准教授
上村博司(昭和60年横浜市立大学医学部卒業)